それでも映画は廻っている

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最もハズレの少ない映画ジャンル「音楽映画」を語ってみる

 

今回は、僕の経験上、外れを引く確率が最も低いであろうと思われる「音楽映画」というジャンルについて語っていこうと思います。取り上げるのは、映画初心者にもお勧めで、音楽映画の最も根源的な魅力が詰まった作品たちです。それでは、本文をどうぞ。

 

注意 今回紹介する作品のネタバレが含まれている場合がありますので、回覧は自己責任でお願いします

 

稀代の音楽映画作家 ジョン・カーニーの魅力

1.沈みそうな船で家を目指そう「ONCE ダブリンの街角で」

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ダブリンの街角で毎日のようにギターをかき鳴らす男はある日、チェコ移民の女と出会う。ひょんなことから彼女にピアノの才能があることを知った男は、自分が書いた曲を彼女と一緒に演奏してみることに。すると、そのセッションは想像以上の素晴らしいものとなり……。

ジョン・カーニー監督の音楽映画シリーズ第1作となるこの作品。インディペンデント映画であり、全米ではわずか2館からのスタートとなりましたが、口コミが話題を呼び140館まで上映館を増やしたほか、劇中でとても印象的に使われる主題歌「Falling Slowly 」がアカデミー歌曲賞を受賞するなど、高い支持を集めた作品です。ジョン・カーニーの音楽映画の何が特徴かと言うと、音がリズムになり、リズムが重なり、フレーズが歌になり、やがて一つの「楽曲」となっていくまでのプロセスの多好感がこれ以上なく描写されている点です。それが、インディペンデント映画ならではの荒削りでパワーのある画面構成と、アマチュア楽家の不器用な恋愛物語に物凄くマッチするのです。そして、この作品の凄いところは、イギリスの移民問題といった現実の社会問題までも描写して見せることです。つまり、これは現代流にアレンジされた「ロミオとジュリエット」的な格差を抱えた男女の物語でもあるということです。その結末は、決して幸せな物でもありません。しかし、この切なくも力強い物語こそがこの現実に響く詩なのだとおもいます。なぜならば、この物語の主人公たちには名前がありません。つまり、それこそがこの物語の普遍性を象徴しているのです。

2.僕たちは皆、闇を照らすのに必死な迷える星なのだろうか?「はじまりのうた」

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 製作した曲が映画に採用された恋人のデイヴとともにイギリスからニューヨークへやってきたシンガーソングライターのグレタだったが、デイヴの浮気により彼と別れて、友人のスティーヴを頼る。スティーブは失意のグレタを励まそうとライブバーに連れていき、彼女を無理やりステージに上げる。グレタが歌っていたところ、偶然その場に居合わせた落ち目の音楽プロデューサー・ダンの目に留まる。ダンはグレタに一緒にアルバムを作ろうと持ち掛ける。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%AF%E3%81%98%E3%81%BE%E3%82%8A%E3%81%AE%E3%81%86%E3%81%9F_(%E6%98%A0%E7%94%BB)

 この映画が、僕のジョン・カーニー監督作ベストです。前述した音楽が生まれる瞬間のカタルシスが、ニューヨークの町中のいたるところでレコーディングをするという物語にバッチリハマり、更にそこから現実を生きるために必要な音楽の尊さ。という領域にまで達します。グレタとダンが一つのメディアプレーヤーを分け合いながらニューヨークの町中で音楽を聴くシーンはまさにこの映画のテーマ性を象徴する名シーンであると思います。そして、この映画の主題歌である「Lost stars」は本当に素晴らしい曲です。劇中では、グレタがデイヴに送った曲と言うことになっています。最初にグレタがこの曲を歌う時は、別れてしまったデイヴを思い出すかのように歌いますが、2回目。デイヴがこの曲を次に歌う時、原形をとどめないほどに改編されたこの曲を聴いて、2人は相いれない存在だということが浮き彫りになってしまいます。そして、デイヴが歌う3回目。それは、本来の姿を取り戻したLost starsでした。デイヴを演じるアダムレヴィ―ンはMaroon 5のボーカルなだけあって、抜群の歌唱力ですべてを持って行ってくれます。デイヴの歌声を聴いて、グレタは涙を流します。そして、彼女は静かにデイヴのもとを去ります。彼はスターになった。やはり自分とは違うのだ。そう悟ったのだと思います。このように、同じ曲を複数回にわたって違う意味を持たせて使うという手法が音楽映画の生理的快感が詰まっています。この映画は、悪い人が出てきません。グレタとダンも、決して恋愛関係になることはなく、必要以上のドラマは描きません。だからこそ、音楽それ自体の幸福が、より純度が高く描かれます。誰が観ても楽しめる傑作です。まだ観てない方はぜひ観てください。

3.何があっても立ち止まるな「シングストリート 未来へのうた」

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1985年、大不況のダブリン。人生14年、どん底を迎えるコナー。父親の失業のせいで公立の荒れた学校に転校させられ、家では両親のけんかで家庭崩壊寸前。音楽狂いの兄と一緒に、隣国ロンドンのMVをテレビで見ている時だけがハッピーだ。ある日、街で見かけたラフィナの大人びた美しさにひと目で心を撃ち抜かれたコナーは、「僕のバンドのPVに出ない?」と口走る。慌ててバンドを組んだコナーは、無謀にもロンドンの音楽シーンを驚愕させるPVを撮ると決意、猛練習&曲作りの日々が始まった――。

http://gaga.ne.jp/singstreet/

 

この映画は、日本ではカルト的な人気を誇る作品です。何がカルト的なのかと言えば、この物語は、特に全ての「兄弟たち」に捧ぐ物語であるからだと思います。ここでいう兄弟と言うのは、生物学上の意味も勿論ありますし、ジョン・カーニー監督の自伝的な映画でもあるこの映画に共感したソウル・ブラザーの事も指しています。そして、抑圧された環境に対する不満を音楽に変えるという今まで以上にロックンロールな音楽観を持った物語は、どうしたってカタルシスを産むものです。この映画の主題歌である「Go now」はまさにこの映画にぴったりな、夢に向かって突き進む若者への賛歌になっています。音楽的にも、歌詞的にも非常に胸が熱くなります。この曲が流れるEDは涙なくしては見られません。

 

Hey, we're never gonna go if we don't go now
いま行かないならいつ行くんだ?
You're never gonna know if you don't find out
君が探し出さなければ誰が見つけられる?
You're never going back, never turning around
君は決して引き返さないし、横道にそれたりしない
You're never gonna go if don't go now
いま行かなければもう行くことはできない
You're never gonna grow if you don't grow now
いま変わらなければもう変わることはできない
You never don't know if you don't find out
いま探さなければもう見つけることはできない
You're never going back, never turning around
君は決して引き返さず、横道にそれることはない
You're never gonna go if you don't go now
いま行かずにいつ行くんだ?

You're never gonna go if you don't go now
いま行かなければ一生ここにいる事になる
You're never gonna know if you don't find out
いま行動を起こさなければ一生知らないままだ
You're never turning back, never turning around
きみは決して戻ったり、迷ったりしない
You're never gonna go if you don't go
行くチャンスはいましかないんだ

引用元

 http://blog.livedoor.jp/yamashu_85/archives/3686951.html

 この映画は、今に不満を持っているすべての若者にお勧めできます。そういう意味では、次に紹介する作品も同様です。

本当のことは歌の中にある「夜明け告げるルーのうた

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寂れた漁港の町・日無町(ひなしちょう)に住む中学生の少年・カイは、父親と日傘職人の祖父との3人で暮らしている。もともとは東京に住んでいたが、両親の離婚によって父と母の故郷である日無町に居を移したのだ。父や母に対する複雑な想いを口にできず、鬱屈した気持ちを抱えたまま学校生活にも後ろ向きのカイ。唯一の心の拠り所は、自ら作曲した音楽をネットにアップすることだった。 ある日、クラスメイトの国夫と遊歩に、彼らが組んでいるバンド「セイレーン」に入らないかと誘われる。しぶしぶ練習場所である人魚島に行くと、人魚の少女・ルーが3人の前に現れた。楽しそうに歌い、無邪気に踊るルー。カイは、そんなルーと日々行動を共にすることで、少しずつ自分の気持ちを口に出せるようになっていく。

 しかし、古来より日無町では、人魚は災いをもたらす存在。ふとしたことから、ルーと町の住人たちとの間に大きな溝が生まれてしまう。そして訪れる町の危機。カイは心からの叫びで町を救うことができるのだろうか?

http://lunouta.com/

天才アニメーター湯浅政明の初のオリジナル作品です。物語はいうなればセカイ系ですが、他のセカイ系のように内に閉じた世界観ではなく、全ての人を救済する優しさがこの映画には詰まっています。むしろ逆で、主人公のカイ君は、自分と言うものを発揮できない心を閉じた中学生ですが、ルーというイノセントを内包した少女との出会いによって、彼は本来の明るい性格を取り戻していきます。そして、この映画の白眉といえるのが、カイ君が「歌うたいのバラッド」を歌うシーンです。序盤から貼られてきた伏線と、作劇上のエモーショナルの高まり、カタルシスが完全に一致して、涙があふれる素晴らしいシーンです。ここまで長々と語ってきましたが、改めて音楽映画の素晴らしさをまとめたいと思います。

・曲の歌詞が物語とシンクロするカタルシスを味わえる。

・同じ曲を何度も使うことによってその意味合いの違いを感じることができる。

・人間の精神構造上、視覚と聴覚両方に訴えたほうが感情の変化の度合い(泣かせ度)は大きくなる。

・よって、音楽映画は誰が観たとしても一定の開かれたカタルシスを感じられる。

今回はこれで終わりです。御意見等あれば遠慮なく言ってください。それでは。