それでも映画は廻っている

自分の映画 アニメ 特撮などへの考え方を明確にするためのブログです。

自分が好きな「恋愛映画」について 

今回は、自分の好きな恋愛映画についてまとめたいと思います。最近僕は、どれも質が良い恋愛映画に出会ってきました。そのどれもが、恋愛の厳しい面を浮き彫りにするような胸が痛む傑作でした。それでは本文をどうぞ

 

 注意 今回紹介する作品のネタバレが含まれている場合がありますので、回覧は自己責任でお願いします

 2017年10月10日 (500)日のサマーについての記事を追加

 

 

 

気持ちが違えば、世界も変わる「エターナルサンシャイン」

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https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A8%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%83%8A%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%82%B5%E3%83%B3%E3%82%B7%E3%83%A3%E3%82%A4%E3%83%B3

もうすぐバレンタインという季節。平凡な男ジョエルは、恋人クレメンタインと喧嘩をしてしまう。何とか仲直りしようとプレゼントを買って彼女の働く本屋に行くが、クレメンタインは彼を知らないかのように扱い、目の前でほかの男といちゃつく始末。ジョエルはひどいショックを受ける。やがて彼はクレメンタインが記憶を消す手術を受けたことを知る。苦しんだ末、ジョエルもクレムの記憶を消し去る手術を受けることを決心。手術を受けながら、ジョエルはクレメンタインとの思い出をさまよい、やがて無意識下で手術に抵抗し始める。

 この映画の脚本を書いたのは「マルコヴィッチの穴」や「アダプテーション」で注目を集め、「脳内ニューヨーク」や「アノマリサ」では監督も務める奇才、チャーリーカウフマン。それだけに、非常に難解な構造と、脳内の記憶の映像化という設定らしい、どこかおかしい悪夢的世界が描かれます。ですが、難しい映画化と言われれば決してそうではなく、とても普遍的な感動を我々に与えてくれます。当たり前ですが、人付き合いと言うものは最高の状態がいつまでも続くわけではありません。絶対に最悪の状態はやってきます。では、どうすれば恋愛は終わることなく続くのでしょうか。この作品が提示した答えは「今のつらい出来事だけでなく、過去を振り返ろう。これからうまくいかないかもしれないけれど、楽しかった思い出は本物なのだから、やり直すことはできるんじゃないか?」と言うものだと思います。彼女との記憶を過去に向けて遡っていくジョエルの姿は、ある種の地獄めぐりでもあり、人生を生きなおすことでもあります。

だからこそ、どんどん記憶から消えていく彼女に思いを馳せ、「この記憶だけは消さないでくれ」と懇願するジョエルの姿。記憶が消えてしまったにも拘らず、再びめぐり合ってしまう彼らの姿は、非常に胸を打ちます。この映画が恋愛映画の古典として認知されているのは、このようなエモイスティックな感動であると思います。では、この映画をポップでオシャレに描いたらどうなるのでしょうか。次に紹介する作品は、まさしくそんな作品です。

一瞬の愛、夢、笑い声 「(500)日のサマー」

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https://ja.wikipedia.org/wiki/(500)%E6%97%A5%E3%81%AE%E3%82%B5%E3%83%9E%E3%83%BC

LAで、グリーティングカード会社で働いているトムは、地味で冴えない毎日を送る青年。ロマンティックな出会いを期待するも、大学で建築を学んでいた彼にはグリーティングカード会社での仕事はつまらなくて、職場にはおばさんばかり。

そんな彼はある日、秘書として職場にやってきたサマーに一目惚れしてしまう。出会いから4日目、トムが偶然サマーと同じエレベーターに乗り合わせたとき、ふいにサマーは「わたしもザ・スミスが好き」と声をかける。そしてそこから二人の交流が始まる。ストーリーはトムの空想と、サマーとの実際の関係を絡めてどんどん進んでいく。

会社のパーティーの帰りがけに、トムはサマーに好意を寄せていることを告白するのだが、サマーは「友達になりましょう」と言うだけであった。34日目、イケアで新婚夫婦ごっこをしたり、ランチピクニックをしたりと徐々に親密になっていく二人だが、期待するトムに対してサマーに「真剣に付き合う気はないの」と言われてしまう。そしてトムは、不本意ながらも「気軽な関係でいいよ」と妥協してしまう。

そして109日目、サマーの部屋に招き入れられたトムは、サマーとの関係が一気に進展したと感じるのだが……。

 

個人的には、この映画のバランスがこの記事で紹介する映画の中で、最も好みです。この映画は、脚本家の実体験が元になっています。主人公のトムが、サマーと過ごした500日間をランダムに見せていくという、ある種ミステリー的な構造が、現実における恋愛についての記憶の思い出し方と非常にマッチしています。そして、トムは「運命の人」と言う概念を信じる恋に恋する青年。対してサマーは「永遠の愛など無い」と言い切ってしまうリアリスト。この2人の関係性はとても魅力的でもあり、切なくもあります。監督はMV出身で、この映画が長編初監督作のマーク・ウェブ。この映画も、随所にMV的な画作りをしているシーンがあります。特にそれが顕著なのが、トムがサマーと初めて性行為をした後の翌日の朝。うれしくてしょうがない彼は、町の人たちとともに、笑顔でダンスするという、ミュージカル的なシーンがあります。このシーンは、彼の心の中がバラ色になったことを視覚的に表現している見事なシーンですが、非常にMV的な撮り方をしています。マーク・ウェブ監督は次作の「アメイジングスパイダーマン」及びその続編でも、主人公とその彼女の関係性や、MV的な画作りをそのまま発揮しています。スパイダーマンと言うキャラクターの青春面を強調した映画として、よくできた映画です。「(500)日のサマー」のラスト付近のやりとりは、非常に秀逸です。トムとサマーが最初に抱えていた恋愛観が完全に逆転した後、お互いが違う道を歩きだし、新しい「1日目」が始まってゆく。非常に綺麗な、落語的な落ちだと思います。オールタイムベスト更新レベルで大好きな映画です。未見の方は、ぜひ観てみてください。さて、次に紹介する映画は、この映画を「陽」とすると間違いなく「陰」に属する作品です。

 

君と僕 2人がいる限り「ブルーバレンタイン

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  結婚7年目を迎え、娘と共に3人で暮らすディーン(ライアン・ゴズリング)とシンディ(ミシェル・ウィリアムズ)夫妻。

努力の末に資格を取って忙しく働く妻シンディに対し、夫ディーンの仕事は順調ではない。お互い相手に不満を募らせながらも、平穏な家庭生活を何とか守ろうとする2人だったが、かつては夢中で愛し合った時期があった……

 

この映画が、数ある恋愛映画の中でも、何故最も強烈で、トラウマになるほどの衝撃を受けるような傑作と言われているのか。それは、この映画は「結婚7年目の倦怠期の夫婦が、ついに離婚してしまう2日間」と「2人が出会い、恋に落ち、結婚するまでの数週間」を交互に見せていくという、胸を抉られるような構成だからです。しかし、どちらかに問題があったから別れてしまうといった安直な物ではなく、どちらにも美点があり、魅力的な人物なのだが、その裏返しとして、欠点も存在する。といった、一方的な結論を導き出せないような人物造形が、これ以前の恋愛映画とは決定的に違う点であり、この作品がここまで語り継がれる所以なのです。

http://www.outsideintokyo.jp/j/review/derekcianfrance/

離婚した両親を親に持つデレク・シアンフランス監督が子どもの頃に最も恐れていたのは、"両親の離婚"と"核戦争"だったという。前者に関しては、それが正に本作のテーマとなっているわけだが、後者に関しては、まるで"核シェルター"のように閉ざされた"未来の部屋"の造形に反映されている。そのことは、"核の恐怖"が現実のものとなってしまった3.11以降、隔離される"ゾーン"を生み出してしまった私たちの暗い現実と奇妙に呼応する。

共同脚本を務めた3人(デレク・シアンフランス監督、ジョーイ・カーティス、カミ・デラヴィーン)の内2人が、両親の離婚を経験しているという本作の物語には、彼らの実体験が濃厚に暗い影を落としてはいるものの、行き詰まってしまった"現在"と無邪気なロマンスに満ちていた"過去"をほぼ同等のバランスで扱っているところに、映画作家のロマンティックな資質が顕われている。

 

 この映画をより切なくしているポイントとして、EDが挙げられます。2つのパートの間に起こった結婚生活の思い出が、花火となって打ちあがる、非常にロマンティックなEDです。離婚と結婚の瞬間が交差するラストの後にこんなEDを持ってくるとは、どこまで意地悪なのでしょうか。そんな残酷さも含めて、僕はこの映画が大好きです。

 

夢追い人に乾杯を「ラ・ラ・ランド

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夢を叶えたい人々が集まる街、ロサンゼルス。映画スタジオのカフェで働くミアは女優を目指していたが、何度オーディションを受けても落ちてばかり。ある日、ミアは場末の店で、あるピアニストの演奏に魅せられる。彼の名はセブ(セバスチャン)、いつか自分の店を持ち、大好きなジャズを思う存分演奏したいと願っていた。やがて二人は恋におち、互いの夢を応援し合う。しかし、セブが店の資金作りのために入ったバンドが成功したことから、二人の心はすれ違いはじめる…

 

2017年でも屈指の話題作であり、一般層にも大ヒットしたミュージカル映画です。

監督は「セッション」で注目された新星デイミアン・チャゼル 主演はエマ・ストーンライアン・ゴズリングの黄金コンビ。アカデミー賞では最多6部門受賞と、話題に事欠かない作品です。この映画、素晴らしいシーンがたくさんあります。オープニングの高速道路での超絶ワンカットシーン。丘の上でダンスするミアとセブ。オーディションでの鬼気迫るミアの歌声等々ありますが、僕が最も心を動かされたのは、やはりラスト15分の「もしも」のシーンです。あそこで完全にやられてしまいました。「マルホランド・ドライブ」的な走馬灯演出は、非常に幻想的で、「巴里のアメリカ人」「シェルブールの雨傘」といった、この映画のもとになったミュージカル映画のエッセンスが漂う名シーンであると思います。そして、別れた2人が再び出会い、また笑顔でそれぞれの人生を歩み始める。あの笑顔一発で涙腺決壊です。ハリウッドが本気で「セカイ系」を作ったらどうなるか。それを教えてくれた気がします。

まとめ

この記事における作品のサブタイトルは、どれも劇中に流れる音楽の歌詞から引用しています。ここまでで紹介した4本の映画の内、500日のサマーを除く3本に共通する点として、客観的には悲劇的な結末を迎えてしまう恋愛を扱っていますが、では2人は出会わなければ良かったのか?と言われれば違うと思います。なぜならば、2人での思い出はつらい思い出だけではないからです。紹介した4本の映画は、どれもその側面をきっちりと描いています。個人的には、「恋愛映画」とは、恋愛とは何か?と言うことを問い直す物であると思います。その面から見ても、批評として機能していなければ意味がないのです。男女がイチャイチャするだけでは、ドラマとして不十分であり、全く心に残りません。やはり僕はぬるま湯よりも刺激的で、自分の人生を顧みて、いつまでも心に残るような体験を求めているのでしょう。ハードコアで刺激的な作品こそが、僕の理想なのです。では、これでこの駄文を終わりたいと思います。