それでも映画は廻っている

自分の映画 アニメ 特撮などへの考え方を明確にするためのブログです。

「バタフライエフェクト」と「STEINS:GATE」と「君の名は。」から見る、センチメンタリズム。

 

 

今回は、私のフェイバリットムービーでもある、「バタフライエフェクト」と日本制アニメの最高傑作の一角を成すアニメだと個人的に思う「STEINS:GATE」と昨年大ヒットを巻き起こした、「君の名は。」に共通するとある演出を比較しつつ、それぞれの作品についての評価をしたいと思います

注意 今回の記事は、この3作のネタバレを含むので、ご注意ください。

 

 

 

 

 

 

 

1.ブラジルでの蝶の羽ばたきはテキサスで竜巻を引き起こすか 「バタフライエフェクト

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主人公のエヴァンは幼少時より記憶喪失に悩まされており、治療の一貫として日記を書き始めた。大学生になって記憶喪失は発生しなくなっていたが、ふと日記を読み返すと、その日記が書かれている地点の記憶にタイムリープする能力があることに気付く。不慮の事故で死んだ幼馴染の死を変えるため、過去改変を決意するが…

というのが大まかなあらすじです。この作品の特徴として、過去を改変するたびに、誰かの人生が狂って行くという無常さが挙げられます。他の時空改変SFと大きく異なる点です。タイトルの由来でもある、バタフライ効果とは「ブラジルの1匹のの羽ばたきはテキサス竜巻を引き起こすか?」ということですが、その理論が忠実に再現された脚本の完成度の高さは特筆すべきものがあると思います。それを最も証明するのは、ラストシーンです。

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8年後に雑踏ですれ違った2人は声をかけることなく、去っていく・・・ 恥ずかしながら、最初にこのシーンを見た時は、号泣したのを覚えています。このシーンのバックにかかるOasisの「Stop Crying Your Heart Out」も、より感動を強めてくれます。

さて、このすれ違い演出。今後、様々なフォロワー作品を生み出すこととなります。

その最も成功したフォロワー作品が次の作品です。

2.和製SFの最高峰 「STEINS:GATE

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秋葉原の小さな発明サークル「未来ガジェット研究所」のリーダー岡部倫太郎はある日、メンバーの椎名まゆりと共に向かった講義会場で、わずか17歳の天才少女、牧瀬紅莉栖と出会う。ラジオ会館の屋上で血だらけになった彼女を発見したことに驚いた岡部は、友人の橋田至に携帯メールを送信したが、めまいに襲われる。意識を取り戻した岡部が観た世界の様相は全く異なっていた・・・

 

私はこの作品を「時をかける少女」以降の日本SF史における一つの到達点としても、ADVのシナリオ面での到達点としても、最大限に評価したいと思います。日本的な恋愛観として、すれ違いのセンチメンタリズムが、日本のフィクションにはつきものです。「時をかける少女」で言えば、時間を隔てた2人の物理的には相いれない別れのシークエンスの部分=タイムリープ物との相性がいいことは明白です。それを踏まえて、この作品について語るならば、シナリオの構成そのものを円環構造にまで仕立てあげ、それをリアルなハードSF的な科学考証で 包み込み、魅力的なキャラクターたちのアンサンブルを大いに楽しむ・・・と、日本的なアニメ表現の優れた面が凝縮されていると感じます。特に牧瀬紅莉栖の死から歯車が狂いだし、むやみやたらな過去改変のせいでまゆりの死に直面する展開、それを回避していく中で、最も強力的であり、大切な存在になった紅莉栖の存在が、最初の地点に戻ることによって、最も残酷な形で浮き彫りになるという展開には、ただひたすら脱帽するばかりでした。そしてラストでのバタフライエフェクト演出。

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これには、完全にやられました。日本にしか作れないエンターテイメントであると思います。いわゆるライトSFとしての特異点がこの作品ならば、日本で唯一ハードSFに挑戦し成功したと個人的に思うのが、伊藤計劃の一連の作品群。特に、「ハーモニー」であると思うのですが、それは別の機会に・・・ さて、最後に、そのすれ違い演出が行き着くところまでいきすぎてしまったと思う作品を紹介します。

3.新海監督のMV君の名は。

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皆が観てると思うので、あらすじは省略。いやぁ。なぜこの映画が邦画歴代二位の興収になったのか、私はいまだにわからないですね・・・まあ、1位が売春少女を描いたアニメだし、多少はね? まあそれはともかくとして、元から一定数のコアなファンを獲得していた新海監督ですが、やはり私は監督の代表作と言えるであろう「秒速5センチメートル」が、一番好きです。前述している日本的恋愛描写であり、新海監督の十八番ともいえるすれ違い描写及びそれに伴う「エモさ」が最も結実した作品に他ならないと思います。それを踏まえた上での「君の名は」ですが、「電車」や「時空」といった新海作品お得意のモチーフに加え過去作ではどうしても拭いきれなかった童貞臭い気持ち悪さを払しょくし、若年層に向けたボーイミーツガール物としては完成度の高いものであったと思います。しかし、設定面の突っ込みどころの多さに加え、新海監督作品特有の楽曲紹介のMVとしての作品構成の部分だけはどうしても捨てきれなかったのが気になりました。確かにRADWIMPSの楽曲はどれも素晴らしいものばかりです。特にEDで流れる「なんでもないや」の一節「君のいない世界など夏休みの無い8月のよう」という歌詞には、これまで紹介してきたすべての作品に当てはまる歌詞だと思い、感慨を抱きました。しかし、出来が良ければ良いほどMVとしての側面が強くなってくると思います。それに加え、プロット面でも前述した2作品に比べ、新鮮味が薄く、それでいてリアリティラインの線引きを引ききれていないと感じました。特に最後のエピローグ的な場面における観客への過剰なサービスとも言える展開は、正直辟易してしまいました。まあ、あそこを無くしてしまうといよいよ「時をかける少女」とまるっきり同じになってしまうので、しょうがなかったのかも知れません。と言うことで、まとめに入りたいと思います。

4.まとめ

今回の記事を書く上で、改めて上記の3作品について考えてみましたが、やはりどれもがそれぞれの作品なりの解釈を持って、人とのすれ違いを描いて見せていたと思います。バタフライエフェクトは、あくまでも、自己犠牲の先に起こるすれ違いを、STEINS:GATEは、作品の円環構造の先にある確かな、そして待ち望んだハッピーエンドとしてのすれ違いを、君の名は。は人と人との縁を主軸にした、極めて真っ当なタッチで描いたすれ違いを、どれもきちんと、作品内では説得力を持って描かれていると改めて感じました。タイムリープ物と言うだけで、7割は面白いことが保証されているジャンルではあると思います。それに組み合わせる要素の取捨選択ができている点が、この3つの作品の評価点だと思います。と言うことで、この駄文を終わりたいと思います。ここまで読んでくれた方、ありがとうございます。